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テニスプレーヤーの3~5割の人が経験したことがあると言われているテニス肘。
実は家事や仕事などの日常の行動が原因で発症することも多いのをご存知でしょうか?
軽症の場合、安静にしていれば回復するため、テニス肘で実際に医療機関を受診する人はあまり多くありません。*1
*1 厚生労働省 平成26年度患者調査(傷病分類編)によると、テニス肘の総患者数は推定18,000人程度となっています。
しかし、私たちの生活の中で一日中フル活用している手はなかなか安静を保つのが難しい場所。様子を見ているうちに症状が進行し、長引いてしまうケースもあるため、早期の治療とケアが必要です。
テニス肘とは、手首に負担がかかる動作を行った時、肘の外側から前腕(ぜんわん:肘から手首の部分)にかけて痛みが起こる症状のこと。正式には「上腕骨外側上顆炎(じょうわんこつがいそくじょうかえん)」という肘の病気です。
ラケットでボールを打つ動作を繰り返すテニス愛好家に多い症状であることから、通称「テニス肘(テニスエルボー)」と呼ばれていますが、実際にはスポーツ以外の仕事や日常の動作が原因で発症する場合も少なくありません。
症状が進行するとコップが持てないほどの強い痛みを伴うこともあり、日常生活にも大きな支障をきたすようになります。
テニス肘は、通常、じっとしている時にはあまり痛みがなく、「手首を反らせる」「内外にひねる」「指を伸ばす」いうような手首を使った動作を行った時に肘の外側に痛みが起こるのが大きな特徴です。
日常生活では、「物をつかんで持ち上げる」「ドアノブを回す」「タオルを絞る」「キーボードを打つ」などの動作をしたときに強い痛みを感じます。
症状の現れ方には個人差があり、急に強い痛みが出る場合もありますが、じわじわと痛みが強くなることもあります。
腕は、日頃良く使う部分だけに一度発症するとなかなか治りにくいこともあり、症状が進行してしまうと安静にしていても肘にジンジンとした痛みが続くようになります。
肩から伸びている上腕骨(じょうわんこつ:二の腕の骨)下部の外側にある出っ張った部分を「上腕外側上顆(じょうわんがいそくじょうか)」と言います。
この上腕外側上顆には手首を動かし、指を伸ばすための筋肉(短橈側手根伸筋、長橈側手根伸筋、総指伸筋など)が重なるように付いており、その筋肉の中の一つである「短橈側手根伸筋(たんとうそくしゅこんしんきん)」という筋肉の付け根「腱(けん)」に炎症が起きたものがテニス肘です。
腕を酷使することで、短橈側手根伸筋の肘の付け根部分(腱:けん)に過度の負担がかかり、細かい亀裂や炎症が起きて痛みが起こると考えられています。
(画像引用)Mindsガイドラインライブラリ 肘が痛い方のために 診療ガイドラインに基づいた上腕骨外側上顆炎(テニス肘)
ラケットでボールを打つ時の衝撃(インパクト)は手首から伝わり、肘の付け根の腱にまで及びます。
テニスプレーヤーに発症が多いのは、「ラケットを振る」という同じ動作を何度も繰り返し行うことで、ストレスを受け続けた腱の付け根の筋肉が炎症を起こしてしまうため。特にバックハンドストローク時に強い痛みを感じます。
週3回以上でテニス肘の発症頻度が上がるという報告があるように、発症の多くは「腕の使い過ぎ(オーバーユース)」がほとんどですが、まだ経験の浅い初中級者の場合、ラケットの正しい面にボールを当てることができないために発症するケースや、ラケットの材質やガットの硬さ、衝撃の吸収性などが関係して起こるケースもあります。
テニス以外にも、バドミントン、ゴルフ、卓球などの手を酷使するスポーツを行う方にも多く見られるため、テニス肘は「スポーツ障害(同じスポーツを繰り返し行い、骨や筋肉を使いすぎが原因で起こるケガのこと)」の一つと考えられています。
テニスなどのスポーツ以外に、重い荷物を運ぶ運送業の方や、料理人、大工などの手首を良く使う仕事が原因で発症するケースもあります。
「重いものを引っ張り上げる」「重い鍋を振る」など、日常的に腕に負担のかかる動作を繰り返し行うことで、肘に慢性的な疲労がたまり、腱の炎症が起こります。
テニス肘は、若いうちに発症することは少なく、30~50代以降になると発症が多くなります。これは、年齢が上がるにつれ、少しずつ腕の筋力が低下することや、肘の腱の強度も落ちてくることが原因と考えられており、特別なスポーツや職業などのはっきりした原因がなく、徐々に痛みが現れてくる場合もあります。
また、テニス肘は性別に関係なく発症しますが、女性は筋力が弱いことや、家事などで腕を使う動作が多いことから、特に中高年の主婦の方の発症が多く見られます。
テニス肘の予防には、手を使い過ぎないということが一番ですが、以下のようなケアをしっかり行うと、発症予防や症状の改善に効果的です。日頃からこまめに行うように心がけましょう。
ストレッチはテニス肘の予防だけでなく、痛みの緩和にも効果があります。
「肘をピンと伸ばした状態で手首を曲げ、30秒間静止した後リラックス」というストレッチを数回繰り返すと良いでしょう。腕全体や手首をゆっくり回すだけでも効果があります。
症状が長引き、慢性化したテニス肘は、筋力を強化するためのトレーニングが有効です。
軽めのダンベル(重さ1㎏程度)やチューブを使い、手首の関節の曲げ伸ばし運動を行います。ただし、痛みや熱感などのある時は、症状が悪化する恐れがあるため、行うのは止めましょう。
肘や手首にかかる衝撃を吸収することができるサポーター(テーピング)は、日常生活で発症したテニス肘にも効果がありますが、特にテニスなどのスポーツが原因で発症したテニス肘には有効です。幅が広いタイプと狭いタイプがありどちらも市販されているので、使いやすいものを試してみると良いでしょう。
痛みが出始めた急性期は、熱を持っている状態なので、氷などで患部を冷やすと痛みが和らぎます。ただし、痛みが数ヶ月に及び、慢性化してしまった場合にはアイシングは逆効果。温めることで痛みが軽くなるので、お風呂で温めるのもおススメです。
テニス肘の診断には、レントゲン検査のほか、痛みの反応を調べる3つの検査が行われます。これらは外来で医師の診察時に簡単に行うことができるテストです。いずれのテストでも肘の外側から前腕にかけての痛みがある場合には、テニス肘と診断されます。
テニス肘は腱の炎症であるため、レントゲン検査を行っても通常、骨には異常が見られることはありませんが、レントゲン検査は骨折など他の疾患との判別に役立ちます。
また、症状が進行して慢性化しているケースは、炎症を起こした腱にカルシウムを主とした沈着物が溜まり石灰化していることがあり、レントゲン検査時に短橈側手根伸筋がくっついている根元部分に白くもやもやしたものが写ることがあります。
肘を伸ばし、手首を上に反らした状態から、医師が逆の下方向に力を加えた時、肘の外側に痛みが出るかを調べる。
椅子を持ち上げた時に肘の外側に痛みが出るかを調べる。
医師は患者さんの中指を下に押し、患者さんはその逆に中指を上に持ち上げるようにした時、肘の外側に痛みが出るかを調べる。
(画像引用)公益社団法人 日本整形外科学会 テニス肘(上腕骨外側上顆炎)
テニス肘の治療は、以下のような薬や理学療法で痛みを抑える治療が基本。
安静を心がけ、症状が落ち着くまでは、テニスやそのほかの発症のきっかけとなったスポーツは一時お休みしましょう。
症状が軽い場合は、腕を安静にし、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)という痛み止めの飲み薬や湿布をすることで症状が改善します。
ただし、飲み薬は長期間使用すると消化器(胃腸)の副作用が出る場合があるので注意が必要です。
発症後6週間程度(急性期)であり、物が持てないほどの強い痛みがあるような場合にはステロイドの注射による治療が効果的です。
痛みのある肘の部分に直接治療薬を注射すると、翌日にはかなり痛みが改善し、そのまま1~2ヵ月程度は鎮痛効果が持続するのがメリットです。
その間も温熱療法やストレッチなどの理学療法を並行して行うことで根本的な症状改善を目指すこともできます。
慢性化したテニス肘の場合は、温熱療法やレーザー治療、ストレッチなどの理学療法を行います。
ストレッチなどのリハビリテーションにはステロイド注射のような即効性はありませんが、長期的に見るとリハビリによる治療が最も効果が高いという調査報告があります。
症状が進行し、上記のような薬物療法や理学療法では改善が見られない場合には手術を行うケースもごくまれにありますが、術後の経過が一定せず、手術を勧めることはまずありません。
手術は主に、短橈側手根伸筋の骨に付いている部分を直接切除する「open法」と、関節鏡を使って関節の中から切除する「鏡視下法」の二つの方法があります。
テニス肘は症状が進行して慢性化してしまうと、年単位の治療が必要になることもあるため、なるべく早いうちに医師に相談し、治療を進めていくことが大切です。
当院では、テニス肘のつらい痛みを解決するべく、一人一人の患者さんに合わせたオーダーメイドの医療を提供しています。
「来てよかった!」と思えるクリニックを目指し、スタッフ一丸となって日々治療にあたっていますので、お困りの症状がある時はぜひ一度ご相談ください。