変形性股関節症(股関節の痛み)

人の体の中で最も大きい関節である「股関節(こかんせつ)」は、ただ体重を支えるだけでなく、「立つ」「歩く」「座る」など日常生活の基本動作を司る要となっている関節です。
その股関節の病気の中でも、一番患者数が多いのが「変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)」。
変形性股関節症は、股関節の軟骨が少しずつすり減ることによって股関節の痛みや歩行障害が現れる病気で、現在、日本国内には100万人以上の患者さんがいると言われています。
一度発症すると、静かに進行していく病気であるため、痛みや歩きにくさなど、脚の付け根に異変が現れた時はなるべく早く診察を受けることが大切です。

変形性股関節症の症状とは?

変形性股関節症の症状は以下の大きく3つに分けられます。

① 股関節の痛み

変形性股関節症の主症状ともいえる股関節の痛みですが、その痛みは進行度によって変化します。
発症初期、軟骨の表面が擦り減り始めた程度では、ほとんど痛みはありませんが、徐々に軟骨の擦り減りが進んでくると、股関節の付け根や大転子(だいてんし:大腿骨上部の外側にあるでっぱり)付近に痛みを感じるようになります。
立ち上がる時や歩き始める時にズキッとした痛みを感じる「始動痛(しどうつう)」が特徴ですが、進行するにつれ、痛みを感じる時間は長くなっていきます。
やがて安静にしている時も常に激しい痛みが続くようになり、夜寝ている時の痛み(夜間痛)で睡眠に影響が出る場合もあります。

② 股関節の動きが悪い

股関節の痛みが続くと、次第に周辺の筋肉がこわばり、股関節の動きが悪くなります。
このような状態を「関節拘縮(かんせつこうしゅく)」と言い、可動域が狭くなることによって靴下の脱ぎ履き、足の爪切り、正座や和式トイレなどの動作が難しくなります。
さらに関節拘縮の症状が進んで末期になると片方の骨盤が傾き、脚の長さに左右差を感じるようになります。(脚長差といいます)

③ 跛行(はこう)

跛行とは、肩を前に出し、脚を引きずって歩く症状のことで、変形性股関節症が進行してきた時に見られる特徴的な症状です。
痛い側の足をかばって歩くことや、安静による筋力の低下、脚長差などが原因で股関節が不安定になり、身体全体のバランスが崩れてしまうために跛行が起こります。

股関節のしくみと発症のメカニズム

股関節は骨盤と大腿骨をつないでいる関節です。
大腿骨の上端にある「骨頭(こっとう)」という部分は丸い球のような形状で、骨盤の「寛骨臼(かんこつきゅう)」にある「臼蓋(きゅうがい)」という受け皿のような部分にすっぽり収まる構造になっています。

骨頭と臼蓋の間には、クッションの働きをしている厚さ2~3mmの軟骨があり、直接骨がぶつからないようになっています。
さらにその周囲は「関節包(かんせつほう)」という袋で守られ、その内部は「関節液」という液体で満たされています。*1

*1 関節液は、関節をスムーズに動かすための潤滑油のようなもので、軟骨に栄養を与える役割もあります。

軟骨の主成分は水やコラーゲンで、血管や神経などはないため、多少擦り減った程度では痛みは起こりません。
しかし、軟骨の擦り減りが進み、徐々に軟骨の下にあった骨が露出してくるようになると、直接、骨同士が擦れるようになって痛みが発生し、骨同士が押しつぶされることで骨が固くなる「骨硬化(こつこうか)」という症状も見られるようになります。

さらに症状が進行すると、接している骨の周辺に「骨のう胞(こつのうほう)」という穴が開きます。すると今度は、それを修復しようとする作用で「骨棘(こっきょく)」という突起状の骨が作られるようになり、次第に関節(骨)そのものが変形していきます。

(画像引用)公益社団法人 日本整形外科学会「変形性股関節症」

変形性股関節症発症の原因は?

変形性股関節症は発症のきっかけとなる原因によって一次性と二次性の大きく2つに分けられます。

①一次性変形性股関節症

股関節自体に特別な問題が無くても、長年、関節を使い続けるうちに少しずつ軟骨がすり減り、ある時点で痛みなどの自覚症状となって現れるケースです。
肥満や股関節に負担のかかるスポーツ、肉体労働などを長年続けている方に発症が多いのが特徴で、欧米人に多いタイプです。

②二次性変形性股関節症

生まれつき股関節の骨の形に異常があるケースや特定の病気などが引き金になって発症するケースで、特に日本人に多く見られるタイプです。
二次性の中でも特に多いのは、子供の時の病気の後遺症である「発育性股関節形成不全*2」や「臼蓋形成不全*3」によって発症するケースで、自覚症状がないまま中年になって発症する場合もあります。
これらは男性よりも女性に多く見られる病気であるため、変形性股関節症は女性の患者さんが多いのが特徴です。*4

*2 生まれつき、もしくは乳児期のオムツの巻き方などが原因で股関節の関節が外れてしまう病気。現在では発症数は減少しています。
*3 臼蓋が不完全な形で成長し、大腿骨の骨頭がきちんとおさまらず浅くなってしまう病気。
*4 変形性股関節症の女性の有病率は男性の2倍。女性特有の骨盤の構造や筋力不足、冷えなども発症に関係していると言われています。

変形性股関節症の写真

(画像引用)公益社団法人 日本整形外科学会「変形性股関節症」

毎日の生活で気を付けたいこと

変形性股関節症は、股関節に負担のかかる生活や行動を続けているうちに悪化してしまいます。まずはご自分の生活に問題がないか、日常生活を見直してみましょう。

①体重コントロール

体の重さを支えている股関節には、歩く時には体重の約3倍、椅子から立ち上がる時には6~7倍、さらに低い位置からの立ち上がり時はなんと10倍もの負荷がかかると言われています。わずかな体重増加でも、股関節には大きな負担となり、痛みなどの症状の悪化につながります。
肥満気味の方は食事内容の見直しや運動でダイエットを行い、適正体重をキープするようにしましょう。

②適度な運動

急性期や痛みが強い時は安静にする必要がありますが、筋肉の緊張を和らげて股関節を柔らかく保ち、筋力をつけるためにも適度に体を動かすことが大切です。
水泳や水中ウォークは、水の浮力で股関節に負担をかけずに行えるので特におススメ。
患者さんの体力や股関節の状態に合わせて行うことで可動域を広げ、痛みの改善にもつながります。

③「冷え」の予防

体が冷えると血流が悪くなり、筋肉が緊張して固くなってしまうため痛みが強くなります。日頃から服装などに気を付け、腰回りを冷やさないようにし、お風呂などで十分に温めると良いでしょう。
※ただし、腫れている時や熱を持っている時に温めるのは逆効果なので入浴は避けます。

④生活スタイルの見直し

和式トイレ、布団といった日本式の生活は股関節への負担がかかります。なるべく椅子やベッド、洋式トイレなど洋式の生活スタイルに変え、股関節への負担を減らすようにしましょう。また、毎日履く靴は、底の硬い靴やハイヒールはさけ、フラットなスニーカータイプを選ぶようにしましょう。

変形性股関節症の検査方法

変形性股関節症の診断は問診とレントゲン検査が基本です。
医師の問診では、痛みの強さや持続時間、いつから痛みが始まったかなどを確認し、股関節の軟骨の減り具合や骨の状態を確認するためにレントゲン検査を行います。

柔らかい軟骨自体は、レントゲンには写りませんが、臼蓋と大腿骨頭のすき間が十分にあれば軟骨はまだ十分にあるということが確認できます。
反対に、臼蓋と大腿骨頭の間にすき間がなくなり、骨同士が近くなっている場合には、軟骨が擦り減ってしまっているということで、臼蓋や骨頭の形やズレなど、骨そのものの変化を画像で確認することができます。(場合によりMRI、CTを行うケースもあり)

そのほか、「関節リウマチ」など他の病気が疑われるケースは、血液検査や関節液検査(股関節の関節液を採取して成分を調べる)などさらに詳しい検査を行う場合もあります。

変形性股関節の治療方法

変形性股関節症の治療は、大きく分けて、「症状を抑えるための治療」と、「外科手術」の二つがありますが、いきなり手術を行うということはほとんどなく、薬物療法や運動療法で様子を見ながら痛みを抑える治療を進めていきます。

①つらい痛みを解消する「薬物療法」

薬物療法は、あくまでも痛みを取り除くための対症療法であり、一度傷んでしまった関節を元通りにすることは出来ませんが、患者さんの苦痛を取り除き、関節の状態を良くすることで、患者さんのQOL(Quality of Life:生活の質)を高めることができます。

急性期の強い痛みや夜間痛などにはおもに非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs:商品名ロキソニン、ボルタレンなど)という鎮痛剤を処方します。NSAIDsには痛みや炎症を引き起こす「プロスタグランジン」という物質の生成を抑制する作用があります。
内服薬は即効性がありますが、長期間使用すると胃腸や腎機能障害などの副作用が出ることがあるため、外用薬(湿布)、坐薬など患者さんの状態に合わせて使用します。

②可動域を広げ、筋力アップ「運動療法(リハビリ)」

強い痛みがある時にはまず安静が必要ですが、長期間動かさずにいると、今度は筋肉が固まり可動域が狭くなってしまいます。
股関節の動きが悪くなると、軟骨に栄養を与える関節液がうまく行き渡らず軟骨の状態も悪くなるため、痛みが少し落ち着いてきたら、医師や理学療法士の指導の元、関節を動かしやすい状態にしておくためのストレッチを行っていきます。

また、腿やお尻、腹筋など股関節周辺の筋力を強化すると股関節の負担を軽減することができるので、患者さんの状態に適した強度の筋力アップの体操も徐々に取り入れていきます。

③治療の最終手段「手術療法」

薬物療法などではあまり改善効果がなく、患者さんの行動が大きく制限されているようなケースは、時期を見て手術が必要になることもあります。

手術には、自分の関節(骨)を温存する手術(自骨手術)と、関節の一部または全体を人工関節に取り換える手術(人工関節置換術)の大きく分けて二種類があります。
自骨手術は、何といっても自分の骨を活かせることがメリットですが、リハビリに時間がかかるのが難点。それに対して、人工関節置換術の場合は、人工物を身体に入れることになりますが、リハビリが短いので社会復帰が早いというメリットがあります。
どちらの手術を行うかは、股関節の状態はもちろん、患者さんの年齢や職業、生活環境、社会復帰までにかけられる時間なども考慮した上で選択します。

痛みで日常生活もままならず引きこもりがちだった患者さんでも、手術後はつらい症状から解放され、ハツラツとした生活を送られている方はたくさんいらっしゃいます。

早期治療がカギ!進行を緩やかにして痛みをコントロール

進行性の病気である変形性股関節症は、放っておいても良くなることはありません。
痛みが強くなってからでは、生活への影響もそれだけ大きくなるので、早期に治療を始め、症状をうまくコントロールしていくことが大切です。
当院では、お一人お一人違う患者様の症状やライフスタイルなどに合わせ、最善の治療を提供しておりますので、気になる症状がある時にはぜひ一度ご相談ください。

著者
院長

いしがみ整形外科クリニック院長 石神 等

日本整形外科学会認定専門医
日本骨粗鬆症学会認定専門医

さたけ整形外科リハビリクリニック院長 佐竹 厚志

日本整形外科学会認定専門医
日本体育協会公認スポーツドクター

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