「ドケルバン病」という病気の名前を聞いたことがないという人も多いかもしれません。
以前は、美容師さん・ピアニストさんなど一部の職業の人に多い「職業病」とも呼ばれていましたが、実は最近になって一般の人の罹患が増えているのです。
以下のような症状に心当たりはありませんか?
もしかしたら、その痛みは、手の腱鞘炎のひとつ、「ドケルバン病」が原因かもしれません。
ドケルバン病とは、親指と手首(手関節)を繋いでいる2本の腱「①短母指伸筋腱」「②長母指外転筋腱」や、その2本の腱を覆うトンネルのような「③腱鞘(けんしょう)」が炎症を起こしている状態です。
(画像引用)公益社団法人 日本整形外科学会 ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)
年齢別にみてみると、発症のピークが2回あるとされています。
・授乳や沐浴で赤ちゃんの頭を支える時など、親指を広く開く動作を頻繁にすることで、親指に負担がかかる
・妊娠・出産によるホルモンの関与
・閉経に伴うホルモンバランスの変化
・家事による手の酷使
また、以下のような職業や特徴に当てはまる人が発症しやすいと言われています。
スマートフォンの画面操作する時、片手でスマートフォンを持って、持った方の親指で操作していませんか?
実は、この何気ない動作も親指や手首に負担をかけているのです。
ドケルバン病セルフチェックには、以下の3つの方法があります。
どの方法でも痛みが増すようであればドケルバン病の疑いがあるので、早めに整形外科を受診しましょう。
※強い痛み・しびれなどを感じたら、すぐにセルフチェックを中止して下さい。
※上記のフィンケルシュタインテスト片手版
※倒して痛みが増すようならば、「ドケルバン病」の可能性がある
※開いて痛みが増すようならば、「ドケルバン病」の可能性がある
親指に負荷をかけすぎることで、親指を伸ばすための腱(短母指伸筋腱)や広げるための腱(長母指外転筋腱)の表面が傷つき、腫れます。
同時に、その2つの腱を覆う腱鞘も厚くなり、腱の通り道が狭くなってしまいます。
さらに、腱の滑りも悪くなるので、親指・手首を使うとより炎症が広がり、腫れや痛みといった不快症状が酷くなるという悪循環に陥ります。
そのため、ドケルバン病は「狭窄性腱鞘炎(きょうさくしょうけんしょうえん)」とも呼ばれています。
また、近年、よくスマートフォンを使う人たちが、「ドケルバン病」と診断されることもあり、「スマホ腱鞘炎」という別名も付けられています。
女性に多い「ドケルバン病」ですが、その理由に“女性ホルモン”が関係しています。
ドケルバン病になりやすい時期の一つ、妊娠・出産時期には、「プロゲステロン」という、妊娠の維持に必要なホルモンが通常期よりも多く分泌されています。
このプロゲステロンには、2つの腱を覆う“腱鞘を収縮させる”という作用も持っていることから、腱の滑りを悪くする原因の一つと考えられています。
一方、更年期の時期には、卵胞ホルモンとも呼ばれる「エストロゲン」が閉経に伴い、減少していきます。
エストロゲンは、女性らしい体つきを作る、髪や肌の潤いを保つ働きだけでなく、腱や関節を柔軟に保つという作用を持っているため、減少することで腱や腱鞘が炎症を起こす原因になります。
ドケルバン病には、大きく分けて3つの治療法があります。
最初に行う治療になります。
ドケルバン病の治療で一番大事なことは、「親指・手首をできる限り動かさず、休ませること」です。
軽症であれば、これらを行うことで、ほとんどのケースで痛みや腫れなどの症状が改善します。
痛みや腫れが強く、仕事や日常生活に支障を来す場合や、投薬治療などを行っても改善が見られない場合には、腫れている腱鞘にステロイド注射(局所麻酔入り)を投与して、炎症・腫れ・痛みを押さえます。
力が入らないなど腱鞘の炎症が重症化している場合や、再発を繰り返している場合には、手術が適応されます。
手術では、トンネルの屋根を開いて中の通り道を広げるように腱鞘を切開し、鞘を開きます。その際、腱鞘の中にある2つの腱を分けている壁も切除することとなります。
局所麻酔による日帰り手術(所要時間:15分~30分程度)が可能ですが、大事な知覚神経がそばを通っているので、経験豊富な整形外科医による執刀してもらうことをお勧めしております。手術可能な医療機関へ紹介致します。
ドケルバン病の予防法
家事やスマートフォンの操作など、日常生活で親指や手首を使う動作は意外と多く、知らぬ間に負担をかけていることも少なくありません。これからは“親指や手首の負担“を意識しながらセルフケアを行って、ドケルバン病を予防しましょう
「お鍋のふたのつまみ側を下にして置く動作」「本をめくる動作」など、ついつい手首を裏返してしまいがちな動作が多くありますが、できるだけ裏返さないように気を付けましょう。
親指の付け根部分を反対の手のひらで軽くマッサージしてみましょう(1回あたり30秒前後、1日3回を目安とする)。
また、スマートフォンの片手操作も親指・手首に負担大です。両手で操作するようにしましょう。
大豆に含まれる「大豆イソフラボン」は、ドケルバン病の発症を予防する「エストロゲン」と似た作用を持ち、「植物性エストロゲン」とも呼ばれています。
更年期前後には、積極的に大豆製品を摂取したいですね。
ドケルバン病は“手を安静にすること”が症状改善の大前提です。
しかし、いざ自力で手を使わないように生活しようとしても、これがとても難しく、手に痛みが出て初めて、使用頻度の多さに気づく方も多いのです。
また、痛み以外にもしびれ・力が入らなくなってきた場合などは、重症化や別の病気(手根管症候群や関節の変形など)の可能性もあり、治療に時間を要することになりかねません。
よく使う手だからこそ、「おかしいな」と思った時、症状が良くなっていかない場合には放置せず、できるだけ早めに治療を受けましょう。